日本を代表する絵巻物のひとつで、国宝に指定されています。
甲・乙・丙・丁の全4巻から成り、全長は44メートルに及びます。彩色のない白描の絵巻物ながら、動物や人間たちがさまざまな儀式や行事、遊戯に興じるさまを躍動感あふれる筆致で描きます。
白描
毛筆による墨の線で描かれた絵。また、その技法。
最も有名な「甲巻」は、兎・蛙・猿を中心に擬人化された動物たちが相撲や追いかけっこ、水遊びや田楽などを繰り広げ、僧衣を纏い法会をおこなう場面へと展開します。いずれも動きに無駄がなく、表情豊かな動物たちが生き生きと描かれています。「乙巻」はさながら動物図譜のように、実在・空想上あわせて16種類の動物が写実的に描かれます。「丙巻」になると人間が登場し、碁や双六、闘鶏といったさまざまな遊びに興じる場面が続き、後半部からは甲巻とおなじく擬人化された動物たちが描かれます。最後の「丁巻」は、人間主体で構成され、験競べや流鏑馬などの勝負事に挑む姿が多く描かれます。
甲巻
田楽
平安時代から始まる日本の伝統芸能。農民の田植の祭が原型で、のちに芸能化された。
法会
仏教の儀式。
乙巻
丙巻
丁巻
験競べ
修験者同士が左右に分かれて、修行して得た法力を競うこと。
流鏑馬
馬を走らせながら鏑矢で的を射る競技。
筆運びや墨の濃淡、動物や人間の描法に4巻それぞれ趣向の違いがみられ、平安時代の終わり頃から鎌倉時代にかけて段階的に描き継がれていったものと考えられます。ながらく鳥羽僧正覚猷の筆とされてきましたが、現在では宮廷絵師や絵仏師の作とする説が有力で、複数の絵師の手によるものと考えられます。また、絵巻物でありながら詞書が付されておらず、物語の主題や制作背景、さらには高山寺への伝来についても経緯が明らかになっていないなど、広く人々に知られ、親しまれながらも、いまだ多くの謎を残す稀有な名宝といえます。
平安時代
桓武天皇の平安遷都(794)から鎌倉幕府の成立まで約400年の間、政権の中心が平安京(京都)にあった時代。
鎌倉時代
源頼朝が鎌倉に幕府を開いてから、元弘3年(1333)北条高時の滅亡に至るまで約150年間の称。
鳥羽僧正覚猷
平安時代後期の僧。園城寺長吏、天台座主などを務めた高僧。絵画にも精通していたといわれる。(1053〜1140)