鎌倉時代に明恵上人監修のもと、高山寺周辺で制作されたと考えられる全7巻からなる絵巻物(義湘絵4巻、元暁絵3巻)です。華厳宗を唐から新羅に伝えたふたりの僧、義湘と元暁の伝記を描きます。
鎌倉時代
源頼朝が鎌倉に幕府を開いてから、元弘3年(1333)北条高時の滅亡に至るまで約150年間の称。
明恵
承安3年(1173)に生まれる。現在の和歌山県有田川町、湯浅氏の出身。華厳宗の中興の祖。神護寺の文覚について出家する。東大寺で華厳を学び、勧修寺の興然から密教の伝授を受けた。建永元年(1206)後鳥羽院より栂尾の地を賜り、高山寺を創建して華厳宗興隆の中心道場とした。寛喜4年(1232)に没する。
上人
学徳を備えた僧侶の敬称。
華厳宗
中国・唐時代に大成した華厳経を根本とする宗派。日本には天平8年(736)、唐の道璿が伝えたとされる。現在、東大寺を総本山とする。
唐
中国の王朝(618~907)
新羅
朝鮮の王朝(4世紀~10世紀)
義湘
新羅華厳宗の始祖。円教国師。(625〜702)
元暁
新羅華厳宗の始祖。和諍国師。(617〜686)
義湘絵は唐の女人・善妙の献身と救済を主題とする物語です。有名な場面として、義湘に愛を告白し、その後、唐から新羅へ帰国する海路で義湘を守るため龍に姿をかえた善妙が描かれています。対して元暁絵は、新羅王妃が危篤のとき、龍宮からもたらされた特別な経典を元暁が講讃し、王妃の病を治すという物語です。
善妙
龍
いずれも女人の精神と肉体の救済を説く内容です。明恵上人の事跡やイメージと重なるような表現も随所にみられ、女人救済に尽力した明恵上人の姿が義湘・元暁両祖師に投影されたものと考えられます。北宋画の影響を受けた高僧絵伝の優品で、鮮やかな色彩と細部描写が異国の高僧の物語を一層いきいきとさせています。また、画中詞が書き込まれた最初期の作例としても貴重なものとされています。
北宋画
中国絵画の系統の一つ。